職場でトラブルが発生した際、再発防止のためには、根本原因(真因)を追究し、適切な是正処置を講じることが求められます。多くの組織では、根本原因の追究に「なぜなぜ分析」が用いられますが、この方法には盲点があります。
そこで、より効果的に原因を探るために「What / Where分析」という新しい手法を紹介します。本記事では、「なぜなぜ分析」の盲点と「What / Where分析」の利点について、事例を交えて解説します。
1. なぜなぜ分析について
「なぜなぜ分析」は、発生した問題に対して「なぜ」を繰り返し問いかけることで、問題の根本原因を追究する手法です。この手法は、製造業などの現場で広く採用されており、実際に問題解決に役立つケースも多くあります。
(1) なぜなぜ分析の基本的な流れ
例えば、製品の不良品が発生した場合、次のようなプロセスで分析を進めます。
このように「なぜ」を繰り返すことで、根本原因にたどり着き、問題解決のための対策が講じられます。
(2) なぜなぜ分析の盲点
ただし、なぜなぜ分析にはいくつかの盲点があります。例えば、「なぜ」を繰り返すことで堂々巡りに陥る可能性があり、経験の浅い人が分析を行うと、問題の根本原因にたどり着かず、表面的な対策で終わってしまうことがあります。
また、「なぜ」の質問は、相手をとがめて委縮させ、責任を問う詰問に聞こえるかもしれません。そうなると、相手からは自分を正当化する言い訳(自分は悪くない)が答えとして返ってくる可能性があります。
(3)なぜなぜ分析の失敗事例
ある製造会社で、新入社員が不良品の発生原因を「なぜなぜ分析」で追求しました。しかし、原因が「作業者のミス」であるという答えに行き着いた時点で、分析が終了してしまいました。結果として、作業者への注意喚起のみが行われ、是正処置に至らず、再度同じ不良品が発生しました。実際には、作業マニュアルの見直しや、作業環境の改善が必要でしたが、「なぜ」の追求が浅かったため、根本原因にたどり着けなかったのです。
2. What / Where 分析について
なぜなぜ分析を補完する手法として、「What / Where分析」について解説します。この手法は、アドラー心理学で言う「原因論ではなく目的論」という考え方に基づいています。従来の原因論では、問題が発生した「理由」を探りますが、目的論では「何のためにその行動が行われたのか」を重視します。
(1) What / Where分析の考え方
アドラー心理学の目的論では、「行動の原因」は存在せず、その行動が「何を目的として行われたか」が重要とされています。例えば、幼い子どもが泣く理由は、悲しい原因があるからではなく、「お母さんの注意を引くため」という目的があるからだと考えます。
同様に、業務上のトラブルやミスも、「なぜ」ではなく、「What(何がミスを引き起こしたか)」「Where(どこでミスが発生したか)」は、モノゴトを客観的に問う疑問詞であり、ピンポイントに対象を指す言葉で、客観的な事実を見つけやすいという利点があります。
(2)What / Where 分析の適用事例
製造ラインで不良品が発生した場合、「なぜ」ではなく「What(何が不良品を発生させたのか)」と問うと、例えば「設備保全の際、機械の誤まった設定が不良品を発生させた」といった具体的な要因が浮かび上がる可能性があります。
また、「Where(どこでその問題が発生したか)」と問うことで、製造ラインの特定の工程に問題があることが判明するかもしれません。この方法では、問題の発生地点や要因を具体的に特定することで、問題解決に直結する対策を導きやすくなります。
3. なぜなぜ分析とWhat / Where分析の併用
「なぜなぜ分析」と「What / Where分析」は、それぞれに利点があります。「なぜなぜ分析」は、問題を深く掘り下げ、根本原因を追究するための強力なツールですが、質問の仕方によっては効果が薄れ、問題の本質にたどり着かないこともあります。
一方、「What / Where分析」は、具体的な事実に基づいて問題を特定しやすく、客観的な視点から原因を明らかにするのに適しています。
(1) 併用の事例
ある物流会社では、商品の破損が頻発していました。当初は「なぜなぜ分析」を行い、「なぜ破損が起きたのか?」を追究しましたが、作業員の取り扱いミスとして結論づけられ、表面的な対策で終わってしまいました。
そこで、「What / Where分析」を併用して「What(何が破損を引き起こしたのか)」「Where(どこで破損が発生したのか)」を問い直したところ、実際には梱包材が不足していたことや、倉庫内の動線が狭かったことが原因であることがわかりました。これにより、梱包材の見直しや倉庫のレイアウト変更といった具体的な改善策が実施され、破損が大幅に減少しました。
(2)「なぜなぜ分析」と「What / Where分析」の効果的な使い方
組織がトラブルや問題に直面したとき、どの分析手法を採用するかは状況によります。経験豊富なメンバーがいる場合、「なぜなぜ分析」を用いることで問題の本質に迫ることができます。
しかし、経験が浅い場合や、問題が複雑で原因が多岐にわたる場合、「What / Where分析」を併用することで、客観的かつ具体的な原因を特定しやすくなります。特に、問題解決に際しては、「原因」に固執するのではなく、今後の「目的」を明確にし、再発防止に向けた具体的な行動を計画することが重要です。両者の手法を組み合わせ、適切に使い分けることで、組織の課題解決力が向上するでしょう。
5. まとめ
根本原因の追究には、「なぜなぜ分析」や「What / Where分析」など、さまざまな手法が存在しますが、どちらか一方に固執することなく、両者を効果的に活用することが重要です。問題の根本原因を追求し、その解決策を実行するためには、状況に応じた柔軟なアプローチが必要です。
未然防止研究所では、セミナーや企業研修で、根本原因追究方法を具体的な事例を交えて、分かりやすく伝えています。